みなさんがお金を払って何かサービスを受けようとする場合、相手に何を求めますか? 業種によって様々でしょうが、つまるところ、何かしらの「喜び」「感動」「快感」を求めてお金を払うわけです。お金を払ってまで苦痛を受けようとする奇特な人はそういないですよね。自ら苦痛を求めるマゾヒストも、それが本人にとっては快感だから求めるのです(笑)。客としてサービスを受けるのに、相手がそれを楽しんでやっているのか、苦しんでやっているのかは正直関知しませんし、知ったところでどうにかなるものではないでしょう。客の立場としては払ったお金の対価として自分に返ってくるものが全てです。また、家を建てるのに、施主の希望よりも自分の好きなデザインを優先させる建築家と、施主の希望をきちんと聞き入れて最善の提案をする建築家とでは、当然後者のほうが施主にとっては喜ばしいし、快感なわけです。自分のことを考えていてくれる、自分のためにこんなにしてくれるんだという感動が、次回またそのサービスを受けようという気にさせるのです。
結局CG制作も、仕事としてそれをやっている以上はこれと同じなんですね。CGを作る自分が面白いかどうかではないのです。できあがったものに対してクライアントがどう思うか、それが全てで、それを作る過程はどうでもいいのです。クライアントの望みどおり、もしくは望み以上のものを提供すれば、それは彼らにとって快感になります(その快感がどんなものかは、人それぞれでしょう。純粋に映像を楽しんだという快感かもしれないし、自分の上司に怒られなくてすむという安堵かもしれません)。うまくいけば、では次回もぜひお願いしますということで次の仕事につながっていきます。
「快感」という言葉をキーワードとして考えれば、仕事の上で自分が何をやれば良いのかが自ずとわかってきます。サラリーマン社会では上司にゴマをすって口先だけで出世した嫌なヤツというのがよく出てきますが、会社の中では上司はいわば自分のクライアントにあたるわけで、そのクライアントが快感を得るという意味では、ゴマをするという行為は立派な仕事と言えます(CGの世界ではいくら口がうまくてもアウトプットされる作品がしょぼければ話になりませんから、あまりこういった人はいませんが)。
CG制作を仕事としていく上で、まず物づくり、映像制作が好きであるということは重要ですが、それだけでやっていくことは困難です。なぜなら自分が好きなものだけを作れるわけではありませんし、十分な制作期間を与えられることは少ないので、純粋に物を作ることを楽しみたい人は、どんどんストレスやフラストレーションが溜まってきます。プロとしてやっていくには、物づくり以上にクライアントとのやり取り、つまり現状の条件内で、どうすればクライアントに快感を与えられるか? そういったことを考えるのが楽しめるようにならなければなりません。時に自分が損をしてでもやっておいたほうが良いこともあります。「損して得を取る」という言葉がありますよね。短期的には自分にとって損かもしれないけれど、長期で見れば大きな利益となって帰ってくる。仕事をしていればこういうことも必要になってきます。
CG制作をサービス業と思えるか思えないか、そこにこの業界でうまくやっていけるかいけないかの鍵があると思います。
”- 林田ブログ