お母さん、身体が随分弱ってきたようで、頻繁にうちに電話がかかってくるようになったけど。
ごめん、期待に応えられない。
あなたの老後の面倒は見られない。
あなたと一緒に暮らした18年間。
存在を否定されづけた記憶しかない。
あなたは私の目の前で泣いた。
「もっと可愛く産んであげられなくてごめんなさい」
「お前をかわいげのない子に育てててしまった。お前が人に好かれないのは私のせい」
父が危篤に陥った時、私は連絡をもらえず、死んでしまってから電話が来た。
かけつけた私がショックのあまり、胃が痙攣を起こしてうずくまると冷ややかに言った。
「早く風呂に入って喪服に着替えなさい」
私はそのまま体調を崩し、冬の寒さに高熱を出し咳をして血混じりの痰を吐き、何度もトイレに駆け込んだ。
「みっともないから、きちんと座ってなさい」
そして、葬儀が終わった後、母は泣きながら私に訴える。
死期を悟った父はおかしくなり暴れるので面倒を見れなくなったから精神科に預けた。
亡くなった父を見ていたら、周りに誰もいなくなった時にかっと目を見開いた。
私を恨んでいるのかしら? ねぇ、恨んでいると思う? 怖い。
母は祖母を邪険にしていた。
私が物心がついた時にはもう祖母は惚け始めていた。
そんな祖母の失態を母は叱咤しつづけていた。
祖母は、そんな母に萎縮してまた失態を繰り返し、母はまた叱責する。
祖母が死んだ時、母は泣いた。
ごめんね、優しくあげられなくて、ごめんね、ごめんね。
お母さん、身体が動かなくなったら施設に入って。
面倒見切れないという理由で死に際の父を精神科においやったあなたを、今度は私が施設に追いやる。
大学に行かずに就職したのは家を出たかったから。
自活できないと、家を出してもらえなかったから。
それほどまでにあなたの側にいたくなかったのに。
側にいなくなってどれだけ解放されたかわからないのに。
たまにかかってくるあなたの声は娘を愛して、娘のために色んな事をしてきたと語るのは反吐が出るの。
黙って聞いているのは18年間育ててもらった恩があるから。
数日で私は36になる。
もういいよね。
お金は返せてないと思うから、介護施設に入るお金は出すよ。
18年間分くらいは。
でも、そこまでだから、それまでに死んでおいてね。
そしたら、私、あなたの身体に取りすがって泣く。
優しくしてあげられなくて、ごめんねって。
”- お母さん、私、あなたの老後の面倒は見られない