――この本は序盤から「知的能力は遺伝する」「得意・不得意は子供時代に決まる」と、身もフタもない“不都合な真実”を連発。あまりこんなことを大きな声で言う人はいませんが、読んでみるとミョーに納得感があります。
「知的能力も含め、多くの能力が遺伝するということは、すでに科学的にある程度証明されています。すべての能力は遺伝しない、後天的な能力で変えていける――この耳触りのよい言い分は、あくまで政治的なものです」
――そう思ってもらっていたほうが都合がいい?
「社会において、公の言説をつくってきたのは大学の教員です。彼らは、教育によってみんなが幸せになれるという“教育神話”を前提にして金を稼いでいる。いわば巨大な“知的既得権”が出来上がっているんです」
――しかし、本当は生まれながらにしてある程度、能力の幅は決まっている。
「能力を決めるのはまず遺伝、そして残りは子供集団のなかでの“キャラ確立原理”です。子供は自分が所属する集団のなかで、他人よりもできると思ったものを無意識に選択し、自分の資源を集中投下する。そうやって目立つことで異性を獲得していく仕組みは、生物としての基本OSみたいなものです」
――そうやって組み込まれてしまっているんですね。
「だから、理由を自分では説明できないんですが、例えば『ドラえもん』のジャイアンは無意識的に野球を好み、勉強を嫌う。とにかく、努力しようがしまいが、できることはできるし、できないことはできない――これが科学的事実なら、その前提を認めたうえで現実的な対処を考えるしかないでしょう」
――それが『残酷な世界』。
「人間の遺伝子は旧石器時代からさほど変わっていないのに、社会だけがすごい勢いで変わった。言語運用能力や論理数学的能力という一部の能力が高い人だけが有利な世の中になってしまった。
これは確かに不公平だし、お金を稼げる人、稼げない人という差は否応なしに出てしまいます。でも、だからといって社会が変わるのを待っていてもしょうがない。だったら個人レベルで生き延びる方法を探すしかない。それが僕の言いたいことです」
”- 現代社会は不公平。それを受け入れたうえでどう生きるか〈週刊プレイボーイ インタビュー〉 | 橘玲 公式サイト