油脂に対する行動は、おいしさの快感をむさぼる食べ方です。それは、油脂にそのようなおいしさがあるからです。
油脂を与える時刻を決めてやると、ラットやマウスたちは実験者が飼育室に入るだけで、早く欲しいと要求するまでになります。
別の実験で、油脂を与える直前に無作為に選び出したラットの脳を取り出して、視床下部にある弓状核という小さな部位を調べました。
毎日調べていくと、3日目ごろから、つまり油脂がもらえると思ってがつがつし始めるころに、弓状核の中にある物質が、油脂を食べる前から上昇していることがわかりました。
伝令の役割をするその物質が発現するということは、タンパク質の一種であるβ-エンドルフィンがつくられ始めたことを意味します。β-エンドルフィンは、快感をつかさどるタンパク質として知られており、おいしさの快感にも関与していると想像されています。
実際に、β-エンドルフィンが脳脊髄液で検出されるのは、油脂を口にしてから15分以内です。ところが、病みつきのおいしさとなって、食べる前から期待感が盛り上がるほどになると、口にしてもいないのに、おいしさの快感に関与する物質の放出準備が始まると考えられます。
同様に、病みつきのおいしさにはまると、神経末端から放出されるドーパミンという、期待感に関与する物質も上昇することが明らかになりました。
ドーパミンの作用を止める薬をあらかじめラットに注射しておくと、油脂を毎日与えても、3日目からがつがつするような行動をとらなくなります。
食べる直前に見られた弓状核のPOMCのmRNAという物質の増加もなくなります。つまり、β-エンドルフィンもつくられなくなります。
私はかつて、病みつきになるようなおいしさを、「あまりにも強化しすぎた食は一種のポルノである」と表現したことがあります。誰もが夢中になるのが病みつきのおいしさですが、あまりにも劣情を刺激するのはいかがなものか。
食には品位と節度が存在し、洗練された大人になるためには、必要不可欠なものだ、と考えています。
”- だしの真髄:ミツカン水の文化センター (via coshina)