私が大好きな映画の1つに「Objectified」というドキュメンタリー映画がある(アメリカのiTunesでは販売とレンタルが行われているが、日本語字幕も吹き替えもないため日本では輸入盤のDVDでしか手に入れられない)。
この映画の中盤で、長年、独ブラウン社のチーフ・デザイナーを務めたディーター・ラムス氏が登場する。ラムス氏といえば「Weniger, aber besser.(より少ないが、よりよい)」というアプローチで有名なデザイナー。
映画の中で彼は、「大半の人々は、わかりやすく、いいデザインに対してはポジティブに反応するのだが、最近はよく考えられずに作られたデザインが多い。これは製品だけの話ではなく、建築や広告などでも同じだ」と語った上で彼が唱えるデザイン十箇条に基づいて良いデザインとは何かを語り始める。
・ いいデザインは革新的なデザイン
・ いいデザインは製品を便利にするデザイン
・ いいデザインは美しいデザイン
・ いいデザインは製品をわかりやすくする
・ いいデザインはいつわりのないデザイン
・ いいデザインはひかえめ
・ いいデザインは長生きをする
・ いいデザインは細部まで一貫している
・ いいデザインは環境に優しい
そして、最後だがもっとも重要なのは
・ いいデザインは、できる限り手数を加えないデザイン
そのラムス氏が最後に、「今日、デザインをシリアスに考えている会社はあまりみかけなくなったと思う。今、そう言えるのはあるアメリカの会社、アップル社だ」
と語ると、次のシーンでニューヨークのApple Storeが登場、そこからアップルのデザインチーフ、ジョナサン・アイブ氏が登場し、今日のアップルのデザインを紹介し始める。
英語のわかる人には、ぜひ実際にDVDを見て欲しいが、私に一番響いたのはアイブ氏がiMacのデザインについて語るシーンだ。
現在のiMacの外装は大きなアルミ板をくりぬいて作られている。27インチ版iMacともなると液晶が大きい分、くりぬかれるアルミ部分も大きいが、実はアップルはこのくりぬいたアルミ部分も無駄にはしておらず、ここから外付けキーボードを2つ作っている、というのだ。「無駄」をなくすことで環境にもやさしく、コストも節約できる。しかも、2つのキーボードの1つはiMacに付属するのだろうから、ユーザーは画面と同じアルミ板に触れながら文字を入力することになる──なんだか素敵じゃないか。
優れたデザインの製品を考え出すだけでも大変な仕事だが、アップルはその製品を作りだすプロセスにまで考えを馳せて、美しいプロセスとしてデザインしている。ちなみに最近のMacでは、メニューバーやログインパネルなどの画面デザインもMacの主要部品となっているアルミをイメージしており、画面の中の世界も外の世界も首尾一貫している。MacBook Proにしても、これまで7つの異なる部品で提供してきた機能を1つのアルミパーツに集約したり(そうすることで頑丈さが高まり、コストが下がる)、スリープインジケーターの機能はMacがスリープしていない間は、ユーザーに関係ないので、目立たないように隠した(なんとアルミの内側から光が透けて見えるようにする技を発案した)など、アップルのデザインは細かく見れば見るほど驚きの連続だ。
映画のインタビューシーンの最後でアイブ氏は「私たち、ちょっとやり過ぎでしょう」と照れ笑いをしてみせるが、確かにここまでくるとラムス氏ではないが、ここまでやっている会社は、アップル以外にほとんど思い浮かばない。
もちろん、Macを使う人も、iPodを使う人も、iPhoneやApple TVを使う人も、iPadを使う人も、そこまでのディテールには気づいていないはずだ。
でも、人間には直感力がある。
実際に箱を開けてデザインされたモノに直接手で触れる際に、多くの人は、「これがタダモノではない」ことに気がついているんじゃないかと思う。
そして、この「良いデザイン」を知ってしまった人は、もはや、「悪いデザイン」には戻れなくなってしまうんじゃないかとも思う。
”- Office for Mac | Apple’s Eye (via tscp)